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 「いい会社」ってどんな会社? 給与と環境、従業員満足

村尾 僕は普段から松岡さんのことを、クリエイターとして見ることが多いですし、やっぱりそっちの側面が社会では認知されている所だと思うんで、経営者としてのお話が聞けることは非常に興味深いなあって思うんですが、どのレベルの年収をもらっている人でも、「もう、どのくらい年収増やしたいですか?」ってアンケートとった場合、必ず、1億円もらっている人も、2000万円もらっている人も、300万円もらっている人も、もう20%増しでほしいっていう回答が必ず返ってくるっていう調査があるんですけど。
松岡

なるほどーうんうん。

村尾 つまり、お金はどれだけもらっても結局満足しなかったり。
松岡 あと20%欲しいと。
村尾 うん、あと20%ほしいって必ず言うし、来期はこれくらい給料あげるって言われても、最初の2ヶ月は給与明細見て嬉しいかも知れないけど、またそこから慣れてきちゃう。結局は収入の議論ってエンドレスだと思うんですよね。でも、それよりも、働きやすい会社とか、居心地の良いオフィスだとか、究極論で言えば、「人が辞めたくない会社・辞めない会社」。いい会社をつくっていくことって、そうなのかな、って僕は最近よく考えるんです。
で、じゃ辞めたくない会社ってどんなとこかというと、インテリアをすごくキレイにすればいいのかっていう話ではなくて、お客様と相思相愛の関係を築けてる会社。今やっていることは嫌なこと、このお客様とつきあうのは嫌なこと、でもこの嫌なことをガマンしてるからお金がもらえてるんだよね、っていう発想ではなくて、お客様と対等な立場で、お互い高めあって尊敬しあってくという、そういう関係が築けたら、僕だけではなくて、僕のスタッフにとっても良い会社になるんではないかと思って。そういうときに、ブランディングってすごく必要だったりするんです。
冒頭の話に戻りますけど、「うちこういう会社だから」ていう風に発信すること。そして、それをメッセージとして受け取ってお客様が集まってくること。100%そういう風にはなりませんけど、どんなに小さなレベルでも、仕立てていく。今までみたいな「お客様は神様です。お金払ってくれるなら誰でもウェルカム」っていう時代じゃ、もうないんじゃないですか、正直。なのでそういうフェーズに小さな会社も来ているのかなっていうのは思いますけれどね。
松岡 すごく共鳴します。村尾さんはやっぱりお客様のことをすごく考えてて、お客様と相思相愛になるってことをおっしゃってるけど、実は、僕はあまりお客さんのことを考えたことがないんです。どっちかっていうと、僕は顧客満足より従業員満足のほうが大事で、僕の目は社員とか、外部のスタッフに向いてる。僕と一緒に仕事をして、モノづくりをしてくれる人達が幸せになれるようにと思っているんですけど。
外部のクリエイターを雇うときも、例えば支払時期ひとつとっても、自分は締め日を早くして支払うってことにしてるんですよ。すると、入金が3ヶ月後でも、我が社のルールに従って、翌月20日に支払ってるんですけど、それは、スタッフにヒドい目に遭ったとか、嫌な仕事したくないとか絶対に思われないようにするにはどうしたらいいかと…。
あとは、お客さんとはよくケンカするんですけど、スタッフに対しては、高圧的だったり、ケンカしたりはしないってことを自分の中でルールにしているし。もしスタッフとお客さんがケンカしちゃった場合、理由の如何、場合の如何に問わず、スタッフ側につく。それはもう決めているんですよ。お客さんはキレてもいいけど、スタッフは守るというのを方針にしているんですよ。
村尾 ああ、いいですねー。
松岡 それで、僕はそういう方針でやっているから、皆、幸せに働いているんだろうと思い込んでたんですよ。でね、デザイナーとして、イラストレーターとして才能のある人を採用し、その人の才能が発揮できるようなレベルの高い仕事をしてもらって、僕は従業員満足を守るために仕事する。自己実現の面でもすごくいいことをしているんだから当然、うちの社員は我が社のことを愛してるはずだと思ってたんですよ。
ところが、一番優秀だなあと思っていた社員がポンと辞めたんですよ。さすがにその人は、会社や僕の悪口は言わなかったです。でも、「私デザイナーの仕事が自分の一生の仕事としてやっていけるかどうかすごく悩んで、違う仕事もやってみたくなったんです」と、こう言ったんですよ。僕にとってはものすごくショックで。こんなに才能のある人が、こんなにレベルの高い仕事をしてたのに、彼女は幸せじゃなかったんだ、って。でもそこから反省して。その頃すごく忙しくて、東京と札幌を行ったり来たり、飛行機で年間40往復してたんです。そうすると、あまり一緒に時間を過ごすということがなくなって、パパパッと指示だけして、「じゃ、やっといてね」と、仕事を発注するような感覚になってて、一緒に作り上げる感覚じゃなかったんですね。
あと、「会社楽しくなかったのか?」と他の社員に検証したところ、「そうですねー、ずっとコンピュータに向かって仕事ばっかりしてたから、一日も言葉を交わさなかった日もありますねー」みたいなことで。うわーそれじゃデザイナーの仕事つまらんよと思って。どんなに良い仕事つくって納品してるって思っても、会社の誰とも相談しないで、自分一人でコンピュータに向かってたら、そりゃ楽しくないだろうなと。それからも少しでも給料高く払おうとか、少しでもレベル高い仕事をして納品すれば自己実現だと思ったのを、これは切り替えなきゃいけないなと思って。
もう、給料そこそこでいいから、とにかく、皆でランチ食べにいこ、みたいな事をやっぱりやるべきだと思って。それで、会社のお金でランチ食べる日ってのをつくろうってことになって。ちょっとこう、かじを少し切ったんですね。だらしなくする方向で切ったんですけど(笑)。
村尾 いえいえ(笑)。
松岡 あの時に、社長として「社員はやりたいことができて幸せなハズだ」っていう思いが実はそうではなかったと、衝撃的に知った時だったんですよ。でもね、社員が「あなたこの仕事してて幸せですか」ってことを聞いても、言ってくれないじゃないですか。「わたし今、不幸せです」とか「社長のこと気に入らないです」と。「いい会社で満足してます」とか「楽しいです」みたいなことを言うでしょ。
村尾 そうですね、うーん。
松岡 ホンネってどこにあるのかって、やっぱり社長の立場ではホンネは語ってくれないわけですよ。その辺って、測定する機会ってあるんすかね。
村尾 辞めるときのはっきりした理由は、100%経営者は聞けないじゃないですか。
松岡 言ってくれないですよ。
村尾 そう、言ってくれないんで、じゃ、感じたこととか、きっとそうだったんだろうなあというのも仮説に過ぎなくて。一つだけじゃなくて、いろんな要因があって、その人は辞めていったりするんで、そこをはっきりと見極めたりとか測定する機会ってのは僕は無いと思うんですね。
松岡 無いですよね。

 会社を辞めたくなる、3つのストレス

村尾 ただ僕も、一番最近の本の中に書いたんですけれど、やっぱり古今東西、会社が大きかろうが小さかろうが、文明社会で生きてる以上、人間のストレスって分類すると3つくらいしかなくて。1つはお金のこと。 1つは人間関係のこと。1つはやりたいことがやれないっていうね。どんなこと紐解いていっても、この3つのどれかに、人間のストレスって当てはまるだろうなあってことを、本に書いたんですが。
で、文明社会で生きている以上、これは0にならないんですよね。絶対、大なり小なり各部分であると思いますし…でも0になるべく近づけていく、ある意味、ゲームみたいなものなのかなあって風に思ってるんです。で、スタッフが辞めていくってのは、この3つのどれかで、何か問題があるから辞めていくっていうことじゃないですか。だから、ざっくりここまでしか分からないかなあと思うんです。あとはもう、度合いですよね。
お金のことに、どれくらい不満があったんだろう、とか。職場の人間関係とか、さっき言ったようにお客様との付き合い方とか、そこの部分でどれくらい。あと、やりたいことがやれない、ね。本当はすごく才能を引き出して、いいステージを経営者として与えているつもりなんだけど、でも本人は他にやりたいことがあって…。
松岡 そうかもしれないです。
村尾 この3つがかけ算になって、ある程度の臨界点にきたときに、スタッフって辞めると思うんですよ。だからこの3つの観点から、僕は会話の節々で、このスタッフはこう考えてるのかなーって時折チェックしたり。また、僕の会社だけじゃなくてクライアントのスタッフにも、同じように考えたりしてますけどね。

 自分をブランディングするための「10の質問」を作ってみる

松岡 さてじゃあ、個人の生き方として、自分自身をどうブランディングするか、っていう視点で、村尾さんにいろいろ教えてもらいたいんです。でね、今後は、労働の流動性が高まっていかなければならない。それから、村尾さんの本にも書いてあったけど、人間の寿命が会社の寿命より長いんだと。会社の寿命が短いから、仕事を代えなくちゃいけないと。本当にその通り。それから、会社自体も業態を少しずつ変えていく「リポジショニング」の必要があると。それもその通り。そんな中で、自分個人として、一人一人がブランド力を持つようになれば、仕事が変わっても、会社が変わっても強いわけで。
そうすると、村尾さんが小さな会社をブランドにしようっていう、この考え方を「個人」に落とし込んだときに、どういう風に考えていけばいいのか。そのへんをちょっとお聞きしたいんですけど。この本に、「自分のモノの考え方は、インタビューされるときに一番強化される」と書いてありましたね。何回かインタビューされて、同じ事繰り返して話しているうちに、自分の信念になっていく。ところが普通に暮らしてると、インタビュー受ける機会がないので、自問自答するしかないんですね。
そこで、個人が自分自身をブランディングするために、自分の考え方を洗練させるための10の質問を考えてみたらいいんじゃないかと。自分にインタビューする。そして、自分自身に何と答えるかを定期的に繰り返してみて、少しずつブレてもいいから、10の質問に答えているうちに、自分自身がブランド化される。その10の質問表をつくってみたら、これはなかなかいいんじゃないかと思って。これ、どうですか?
村尾 じゃ、どういう質問があったら、人は研ぎ澄ますことができるのか。自分のことを、改めて考えることができるのか。色々あると思います。
僕が普段コンサルティングの場でよく聞く質問は「今日みたいな日がずっと続けばいいのになと思った日はどんな日ですか?」。 この間こういう気持ちのいい日があって、電車の中でもずっとニコニコしてて、それはどんな日だったか。どうしてそういう日になったのか。その中に自分がしたい仕事や、自分はこんな人間関係を築けた時が最高なんだな、とか、いろんなものが詰まってると思うんで。
自分にとって最良の日、最近覚えてる良かった日を振り返ってもらうってことはよくやりますね。

 その1
「今日みたいな日がずっと続けばいいのになと思った日はどんな日ですか?」

松岡 この質問はいいね。それとね、僕も一つ考えた。この本の中に書いたんですけど(哀愁のジャパニーズ・ドリーム)実はこれ、僕が起業に至る経緯、それから起業してからこんな苦労しましたっていう「私の履歴書」の前半戦みたいなことが書いてあるんですけど、「今日一日、日記に書ける出来事がありましたか?」うちの息子が夏休みの宿題で絵日記書けって先生に言われて、書くことがなくて困って、泣いてたんですよ。
村尾 泣いてたんですか(笑)。
松岡 僕も夏休みの宿題で絵日記に書くことがなくて、すごく困ってたんですよ。泣きはしませんけどね(笑)。絵日記って、「今日は家族と海に行きました。バーベキューしました。楽しかったです」って特別な出来事を書くもんだと思ってた。でも僕の子供時代は、そんな行事が一つもない。僕自身は、友達と遊ぶ「いつもの出来事」しかないんで。僕もすごく困ってたってことを思い出しまして。
でも僕、会社をつくってからは、いいこともあったし嫌なこともあったし、嫌いな人にもいっぱい会ったんですけど、でも毎日、日記に書けることがいっぱいなんですよ。ただ、あまりにも忙しくて、書いてるヒマなかったんですけど、そのことを思ったときに、起業する人生って素晴らしい。
僕が東京銀行にいて、言われた仕事をやらされているときに、今日はこの仕事を何個やり遂げたって、日記に書くか?絶対に書かないと思うんですよ。自分が寝る前の貴重な時間を使って、そんなこと書きたくないんですよ。やっぱりもっといいこと書きたいじゃないですか。例えば20歳くらいのときに恋愛して、今日はここをデートして彼女はこんなこと言ってた。そのときすごく辛かった…みたいなことは絶対日記に書きたいじゃないですか。恋愛したときにあんなに書きたいっていうのは、やっぱり、生きてる証拠なんだろうと。
でも会社に勤めて何も書くことがないって言うのは、生きてないんじゃないか。僕が、起業してから毎日書きたいことがいっぱいあるっていうのは、俺は生きてるんだなと実感するんですよ。

 その2
「今日一日、日記に書ける出来事がありましたか?」

村尾 良いと思います。非常にシンプルですけど、とても深いとなあ思いますね。「レコーディングダイエット」って非常に優れた手法なんじゃないかな。いろんなダイエット法が出ましたけど、「レコーディングダイエット」が一番素晴らしいんじゃないかなと思います。一昨日ランチ何食べました?って聞いても、なかなか思い出せないですよね。でも、そうやって何を食べたか書くことによって、それを振り返って、反省したり記録になる。それって、人生そのものもまったく同じで、何をしたか、どう生きてきたか、それをレコードするだけでも、だいぶ物事変わってきますよね。
でも今松岡さんが仰ったように、多くの人が、ただただ毎日過ごしていたら、実は、書く事って意外とないのかも知れないですね。でも、「書けるように日々伝説を作っていこうぜ」、って切り替えていくと、嫌だなあと思う営業活動も、「よし!今から出て行って、何か伝説を一つ作るぜ」と、色んなことが楽しくなったりするかもしれないので。
松岡

幅広く言うと、レコーディングによる自己実現みたいなことですね。

村尾 ですね。それはとても深くていいと思いますね。
松岡 今日、書けることがあるか。じゃあ、明日はどうなのか。明日書けることがあるように、出来事をつくるようにする。
村尾 そうすると、人生に、非常に積極性が出てくると思うんです。
松岡 そうですね。
村尾 「いいことないかなあ」って言うじゃないですか、何もない人って。でも、待ってるよりも自分で積極的につくりに行った方がいいことあるもんで、ね。日記に書けるようにしていこうってのは、ある意味発想の転換だから、とてもいいと思います。もう一つ、僕のほうからですね、「個人ブランド」というと、ルックスとか髪型とか、ジェスチャーとかしゃべり方も重要な部分でもあると思いますので…「今日、あなたが着ている服の理由を教えてください」。
松岡 着ている服を、なぜ選んでいるか。これも、すごい重要。服ってなんとなく着てますね。
村尾 ラクだから、もしくは最近買ったから。自分が好きなモデルの誰々ちゃんが着てるから。最近このブランドがキてるから。もしくは、今日暑いから、今日雨だから。そういう理由で服を選ぶって人がほとんどなんですね。でも僕は、「自分で自分のブランドつくっていこう」「個人でもブランド人であろう」って考えたら、「今日、こういう人と会うな。こう思われたいからこれを着よう。」
松岡 なるほど。
村尾 こういう印象を与えたいから、今日これを選ぼう。服だけじゃなくてアクセサリーとか色合いとか。なので、自分軸じゃなく、相手軸や社会軸で、自分の服装とか髪型、ジェスチャー、しゃべり方に注力していく。なので、「今日、あなたが着ている服装の理由を教えてください」という質問に対して、どんなに稚拙でもいいから答えられることが重要だと思うんですね。相手軸で、選んだ服装を答えられるかどうか。社会にどう思われたいかっていう軸で自分のことを考えていくっていうのが、一つの習慣としてあったら、僕は個人ブランド力が上がっていくと思うんで。
松岡 洋服着るのに、意図がある。理由があるって、意識しておいたほうがいいってことですね。俺なんも考えて無かったな。
村尾 理由がなんであれ、答えられるとか、選ぶときに考えたってことが重要なんで、なにも考えないで、今日暑いから、朝ニュース見たら東京30度になるっていうからっていう理由じゃなくてね。なのでこの質問を、日々自分に聞いたり、もしくは居酒屋のふとした時間にお互いに聞いたりすると、結構自分ブランドって研ぎ澄まされると思いますね。

 その3
「今日、あなたが着ている服の理由を教えてください」

松岡 じゃ、3番目はそれで決定。4番目は何にしようかな。ブランドってもともとは、差違化、差別化、識別化。他と違うという識別性があり、そこに信頼が乗っかってくるとブランドになることになりますよね。
村尾 そうですね。
松岡 だからまず、識別性があることが大事で、皆と同じだったら、そもそもブランドじゃない。他とちがう差違に、信頼がどう乗るか。まず差違をうまくつくる質問、ないかなあ。例えばね、俺、あるニュースを見たときに、一時的に出てくる反応って、皆同じものだと思うんですよ。鳩山首相がこんなこと言ってた。わー情けない。日本の総理なんだから、もっとしっかりしたこと言って欲しい、みたいな。一時的な反応は実は皆同じ。でね、ブログとかツイッターで、その一時反応でつぶやくと、皆、同じ意見になってしまうんですよ。
村尾 なるほど。
松岡 そこで僕が、自分がプロとして心がけていることは、人と同じ事を言うくらいなら、死んだ方がマシだと(笑)。ということで、一時反応をいかに超えていくか、を考えるんですよ。
村尾 なるほどね。
松岡 それで、皆たぶんこれ考えるんだろうなって事しか思いつかない時は、黙ってようってことで(笑)。
村尾

おもしろいですね。

松岡 で、何か言うかぎりは、人と違うこと言おうっていう。差違性をパッと引き出せる質問ないかな。
村尾 そうですね。例えば、バーッと両極な意見が出ても、「まあまあまあ、そこは両方のバランスが必要だと思うんだよ」って後で言う人いるじゃないですか、必ず(笑)。皆の一時反応を待って、そこから何か言うと、結局コイツがイイ奴だ、みたいなね。これは質問じゃなくてルールになっちゃいますけど、一個人として価値は上がりますね。
松岡 いいですね。これを、質問のカタチにしよう。
村尾 「今日、いいこと言ったか?」みたいなね。
松岡 「今日、人と違うこと言ったか?」これいいですね。

 その4
「今日、人と違うことを言いましたか?」

村尾 それは普通に勤めてる方でも、会議でも、「何かありますか?」となったときに、皆と違う意見を一つでも言う。「いつも彼はやっぱり違うね、視点が」ってそれが積み重なっていけば、ブランディングにつながる。それはさっき松岡さんが言われた、識別とか、違う、というところには繋がっていきますね。
松岡 あと、これはどうかな。この間NHKのテレビで、ユニクロの取締役会が放送されてたんですよ。で、誰かが報告をした後、柳井さんが怒って、「そんなことではダメだと思うよ。もっと、根本的に違うこと考えないと。これについて誰か何か意見ないか?」と皆に聞いたんですよ。誰も何も言えないんですよ。
ユニクロのカリスマ経営者、柳井さんに対して物が言えるはずがないんですよね。役員になったとしても。でもあの場で、言えないのが普通の初期反応だと思うんです。柳井さんのような実力のある人に、僕らはたまたま抜擢されて、その役員会にいると。その時に何か意見ないかって…言えない、という殻をうち破って何か言えるには、どういう風にしたらいいんでしょうね。
村尾 (笑)。そうですね、それは目上の人にってことですか?
松岡 俺、柳井さんに認められるにはどうしたらいいんだろうって、考えたんですよ。立派なこと言おうとか、柳井さんに認められたいと思うから言えないんであって、俺、北海道から出てきたクマだから、失礼なこと言っても仕方がないって思えば言えるんですよね(笑)。
村尾 僕はいろんな業種、業態の現場に行っていろんなことやるわけですから、当然、僕はその業界を知らない。タクシーの会社、クリーニング屋さんとか。僕よりも、もちろん現場で働いている、この道20年という人のほうが、当然、色んな物事分かってるじゃないですか。そこを、僕が勉強して追いつくなんて事はないから、ハナからそこは諦めてるんですね。
でも、彼らよりも「お客様や現場のことを知っている」って風になったら、業界用語を覚えるよりも何よりも、すごく強烈になるんです。そうすると、会議があっても「自分は、そこのお客様のことを、より知ってる」と。現場でいろんなこと調べたと。「いやいや、現場ではこうですよ」と、いけるわけです。大抵の人は現場に慣れちゃうと深く考えないし、ましてや経営者もしばらく離れてて、現場やお客様を知らないか、知ってても、昔のことだったりするんで。僕はやっぱり、現場を誰よりも知るという、「現場感」に注意してプロジェクトの下準備をしていくんです。
柳井さんのやつは、僕は観てないから分からないんですけど、もし、その取締役会のなかに、現場のことをめちゃくちゃ知っていて、ユニクロのお客様ともいろんな対話をしてる人間がいたら、「でも、その意見に対してですが、お客様はこう思ってるんですよ。この間、僕お客様と道で30分話したもん」っていう現場感みたいなものがすごく大切だと思いますね。意見するためには。
松岡 なるほどね。「人の知らない『現場』について知っているか?」何か、自分の現場。自分の持ち場。それについてだったら、他の人は知らないけど、俺は知ってる。それがあれば物言えますね。
村尾 これはブランディングとか個人ブランドとかって言うよりも、仕事術みたいなことになってしまうのかも知れないけど…。「働いている仲間が絶対に知らないような、情報とか、データを今日一つでもつかんだか?」みたいな。毎日だと難しいかもしれないけど、一週間に1回でもあると、いろんなアイデアも沸いてくると思いますしね。

 その5
「人の知らない現場について知っていますか?」

松岡 これいいですね。弁護士の中坊公平さんが、初期、頭角を現した秘訣ってのが、この、やっぱり現場だったそうです。よく倒産事件って、弁護士が儲かるんですって。 で、倒産事件とか、他人の事件をいろいろ引き受けて、会社の再生とかをするんだけれども、そのときに、現場に行かない弁護士が、圧倒的に多いんですって。で、その中で自分は、工場に出かけて、どれが差し押さえられたんだとか、この機械、何に使うんやと聞く。この機械だけは何とか取り戻さなきゃいけないなとか、そういう現場を知っているっていうと、他の弁護士より明らかに、違いの出る仕事ができるんですって。
それで、あの弁護士は他と違うっていう、倒産した社長同士の口コミで拡がったんだそうです。これいいね、現場主義ね。
村尾 だんだんと、年齢とともに、そういう現場感が薄れてくると思うんでね。うーん、より仕事人として大成するためには、現場感は持ち続けたほうがいいと思うんで、一つの質問としてはいいかも知れないですね。

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